薬学、ヨーガ、インド思想・歴史、仏教等・・・、私がこれまで大なり小なり触れてきた学問分野の変遷です。どれも立派な体系であるので、ずっと学びの途中にありますが、中には近年、興味が深まったものもあります。とりわけ、30代後半になってからの大学院での勉強や研究(地域研究専攻、フィールドはインド)は、新鮮かつ刺激的で、「世界は広かった・・・」と思うことがしばしばでした。ヨーガそのものと少し距離を置いたことで、かえって、違う視点からヨーガを見ることができ、その結果、改めてヨーガへの関心が深まったことは一つの収穫でした。
この学びの背景には、私自身ヨーガとどう関わるか、といった意識がずっと働いていたことが考えられます。日本でもヨーガは長いこと実践を主体に行なわれてきたわけですが、近年のフィットネス系のヨーガブームや、ヨーガ療法といった分野の興隆も、ヨーガを考えなおす良いきっかけとなったかも知れません。従来、日本におけるヨーガの研究は、主にインド思想の面からなされてきたと考えられますが、現代では、医学をはじめ、心理学、社会学、人類学、宗教学等、また、人間科学など学際的な分野も含め、様々な領域からアプローチできると言えるでしょう。研究テーマとしても、今後、可能性は広がっていくことと思います。そうした中、「ヨーガは古典をもとにした文献研究、医学生理学的な実証研究、および実践エクササイズという「三位一体」のありかたでアプローチされるべき」(山下博司『ヨーガの思想』〈講談社、2009年〉より)という指摘もあり、このような視点は一層大切になっていくと思われます。このことは、インドでは既に85年前より、カイヴァルヤダーマ・ヨーガ研究所で行われてきたことですが、その研究・教育・実践モデルは、今後も示唆を与えることでしょう。
同研究所の付属ヨーガ大学では、ヨーガの理論として、ヨーガのテキスト(『ヨーガ・スートラ』や『ハタ・プラディーピカー』等)の講義の他に、解剖生理学やインド思想、心理学、ヨーガ教授法等の講義もありましたが、おそらく、これはヨーガが持つ学際的な特徴によるものと言えます。ヨーガは、人間探求と言いますか、人間をトータルに扱うものだと思いますので、特にヨーガを教える人は、こうした分野を(一般教養レベルとしても)最低限知っておいた方がよいと言えるでしょう。ただシンプルに、ヨーガはヨーガとして存在しているのに、学問となると少々やっかいになるように感じます。しかし、アーサナ(ポーズ)やプラーナーヤーマ(呼吸法)、瞑想などのヨーガ行法を実践し、伝えることの背景には、長い歴史の中で積み上げられてきた実践と理論体系の重みがあり、それを包括的に学ぶことを無視できないのではと私は考えます。そうした過程の中で、改めて実践の意義が浮き彫りになり、実践がよりよいものとなっていくのではないかと思います。